年老いたスラムキングは言った。姿を消した神々が戻ってこなければ、いずれこの大陸は滅ぶ、と。





 ――雨が降っていた。さらさらと綺麗な音をたてながら。今ここにある現実を洗い流すことなんて出来もしないくせに、赤い水溜りだけをぼやかして、無責任にもあの人の体温を奪い去っていく。
 俺は立ち尽くしていた。降りしきる雨に濡れながら。今ここにある現実を消し去ってしまえる術を手探り、流れるように血の気を失う表情と、伴って広がり、ぼやかされる血溜りを呆然と見つめる。

「な、ぁ…」

 こんなはずではなかった。

「起きろよ」

 撃たれるのは、狙われたのは俺だった。

「俺を庇うなんて、馬鹿じゃねぇの…」

 俺は見たんだ。黒光りする銃口と、絞られる引き金。乾いた音と共に放たれた銃弾を。
 それでいいと思ったんだ。もう行くところなんてない。哀しむ人だって。だからここで終わるならそれでもいいと。

「起きろよっ…!」

 でもあんたが邪魔をした。俺と銃弾の間に立ちはだかって、冷たい死の抱擁から俺の命を遠ざけた。そんなことする義理も義務もあんたにはない。俺たちは出会って半月も経たない赤の他人で、あんたは、俺の名前だって知りはしないのに。

「あんたが死ぬ理由なんてないだろ…?」

 あんたが死ぬ必要なんてない。あんたは何も悪くない。だから死なないで。

「なあ!」

 俺のキング――





 雲に覆われているわけでもないのに灰色がかった空に見下ろされ、息苦しささえ忘れたスラム。絶望で満たされた掃き溜め。たかが人間ごときの手で掴むことの出来るものなどないのだと、誰もが知りながら薄っぺらい生を謳うことやめない。生きていられるだけで幸せだなんて、本当は誰も思っちゃいないのに。

「キング」
「…今行く」

 皆に慕われここを治めていたスラムキングはもういない。あの爺さんが死んでからだ。このスラムの闇が濃さを増したのは。

「なんかあったのか」

 ガキ共が持ち込んだ銃の暴発であっけなく死んだ。爺さんらしいといえばそう。でも、ガキで溢れたこのスラムには爺さんの存在が必要だった。

「西地区の連中だよ。あいつらお前の忠告なんて全然聞いちゃいないんだぜ」

 三十まで生きられたら幸せ。四十まで生きられたら奇跡。五十を越えたらそいつはバケモノ。――ここはそういう場所。だからこそ、年寄りの思慮深さと知識はなくてはならない。

「かまわねーよ、死なせてやれ」

 自分たちが持ち込んだ銃の暴発で死ぬのならそれは自業自得だと、俺なら割り切れる。手を伸ばさずに、ガキ共が息絶える様をただ見ていることだって出来る。でもそんなガキ共をスラムキングの爺さんは庇って死んだ。だからこそ、あの人はまだ必要。せめて次のキングを育て上げ、そいつがキングとして独り立ちするまでは、必要だった。

「死ねるなら幸せさ。俺はアンダーグラウンドの連中に捕まることの方が怖いね」
「…俺が行く。お前は何人か連れて南に回れ」

 俺だって時が戻らないこと、死が覆らないことくらい知っている。なのに爺さんの存在を望んでしまうのは、現状に満足しきれていないせいだ。

「南?」

 爺さんが生きてるうちはよかった。あの頃の俺は、自分が生きるためだけに毎日を費やして、時折爺さんの話す世界や神、精霊、魔法なんかの話を聞いていればよかったんだから。

「そろそろ見回りの時期だろ」
「あ、そうか…了解」

 なのに今はなんて不自由なんだろう。

「ヤバそうだったら戻れよ」
「わかってるって」

 爺さんが死んで、周囲が次のキングにと望んだのは他の誰でもなく俺だった。

「キングこそ気をつけろよ」
「あぁ」

 行くあてもなく彷徨い、そしてこのスラムに辿り着いた薄汚い子供。それが俺。他人の死に興味を示さず、まるで感情すら持たない人形であるかのよう振舞っていたのに、爺さんが俺のことを気に入り手元に置いていたせいでこのザマだ。笑えないにもほどがある。

「…雨か」

 今やスラムは俺の国。俺はスラムの囚われ人。


 ――私を呼んで


「ッ――」

 覚えのある音が轟いて、俺の意識は焼けつくような痛みと共にブラックアウトした。





 ――お前には名前があるだろうとあんたは言った。俺はそんなものとうの昔に失くしたと答えた。

「バカ言うな、外の人間なら親に貰ってるだろ」
「親は死んだ。だからあいつらのつけた名前はもうない」

 それは紛れもない真実だった。俺に名前をつけた親が死ねば俺は「俺」という鎖から解き放たれることが出来、俺の名を知る人がいなければ、俺が「俺」でいる必要はない。

「面白いな」

 それで俺が「俺」として生きてきた時間が消えてなくなるわけもないのに、俺はそう信じきっていて、またそうでなくてはならないと考えていた。

「なにが」
「お前がだよ、クソ餓鬼」

 そんな俺をあんたは嗤って、それでも手を差し伸べた。

「――来い」

 そして俺は、どういうわけかそんなあんたを心から拒絶できないでいたんだ――





「――……」

 小奇麗な天井が目に付いた。

「俺、は…」

 しかも見覚えのある。

「起きたのかい?」
「……ドクター…?」

 ベッドを囲むカーテンの隙間から《ドクター》が顔を覗かせた。

「憶えてるか? あんた撃たれたんだよ」
「…俺が?」

 表向きは今一状況を理解していないような顔をして、あぁまたかと、俺は内心息を吐く。

「そう、あんたが」

 何がそんなに楽しいのか、ニヤニヤと笑みを浮かべるドクターが指差したのはドクター自身の腹で、俺はすぐにそこを撃たれたんだと悟った。

「あんたは運がいいよ。さすがキングだ」

 撃たれたのは三回目。

「今までで一番近いな」
「…西の坊主共に感謝しな。あいつらがあんたを見つけるのがもう少し遅かったら、死んでたよ」
「ここじゃいつどこで誰が死んだって不思議じゃない」

 一つ目の銃弾はあの人の命を奪い、二つ目は足を掠め、三つ目はついに俺の胴体へと辿り着いた。

「あんたはまだここに必要だ」

 俺の命を狙って何が楽しいんだか。

「そーだな…」
「…心臓に風穴開いたら治療は無理だからね」
「分かってるって」

 スラムキングであろうとなんであろうと、このスラムを出れば身よりも何もない孤児であることに変わりなんてないのに。

「今日くらい大人しく寝ときな。どうせ外は雨だ」
「あぁ」
「大丈夫。一日くらいあんたがいなくても皆ちゃんとやるよ」
「うるせぇな、寝かせろよ」
「はいはい」

 下手な狙撃手のせいでまた死に損ねた。


 ――死にたいの?


「え…?」

 病室として使っている部屋に俺だけを残してドクターはどこかへ消えた。耳を澄ませば、さらさらと布の擦れ合うような雨の音が聞こえる。
 あの日と同じ音の雨だ。

(幻聴か…?)

 死にたいわけじゃない。あの人が俺を庇って死んだあの日から、俺はあの人のために、あの人の死を無駄にしないために生きてきた。

 ――迎えに来て

「……聞こえる…」

 ――私を



 スラムキングとしてスラムを束ねるためにじゃない。



「っ」

 病室のある三階の窓から飛び降りて、着地したのは隣の建物の屋上。絶えず痛みを訴えてくる傷口を押さえ、乾いた雨の中を駆け出した。

 ――迎えに…

 頭の奥で囁くような声は止まない。

「わかってるよ…」

 俺が独りになった日も、あの人が死んだ日も、スラムキングの爺さんが死んだ日も、こんな雨が降っていた。空は見慣れた灰色より深く濁り、雨が降っているのに大気はどこか温かい。

「すぐ行く」

 だから俺は、また運命が動くかもしれないなんて淡い希望を胸に抱いていた。





 ――穏やかな顔で俺を手招き、スラムキングは自分の隣を軽く叩く。そこに座れと、この爺さんは言っているのだ。

「んだよ」

 逆らったってなんてことはない。なのに従ってしまうのは爺さんの持つ空気のせいだ。スラムには縁のない、酷く温かくてくすぐったいほど柔らかい雰囲気。

「頬に血がついているよ。また誰かと喧嘩したんだね」
「売られたから、買っただけだ…」

 知らぬ間に感化される。

「無闇に傷付けてはいけないよ。傷付けただけ傷付けられてしまうからね」
「…いつか報いを受けるって言いたいのかよ」
「あるいは既に受けているのかもしれない」
「……」

 だからこの爺さんは嫌いだ。何も知らないくせに。全部知っているような顔をして、俺の中を掻き回す。

「私にはわからないけどね。全部平等なんだよ、それだけは憶えておいで」
「あぁ…」

 少しずつ少しずつ、俺が捨てた「俺」を俺の中から引きずり出す。

「お行き。もうすぐ雨が降る。それまでに帰りなさい」
「引き止めといてよくゆーぜ」


「気をつけて」


「あぁ。…また来る」

 空は濁った灰色をしていた。

「私はいつでも、ここにいるからね」

 温かい大気が頬を撫で、俺は誘われるように外へ出る。

「お前は独りじゃないよ」

 何を馬鹿なことを言ってるんだと、その時は思った。でも――





 呼び寄せられるまま駆け込んだのは、スラムの地下に張り巡らされた通路の一つ。長い年月をかけて地下へ地下へと広がるアンダーグラウンドの表層であり、もう使われなくなって久しいそこは、西地区の連中が好んで入り浸る場所である一方、いつ気紛れな地下の住人が現れるかわからない危険な場所でもあった。
 その通路を、俺は下層へと向かって走る。

 ――早く

 呼び声は進む度強くなっていた。

「まだ先か…」

 閉ざされた隔壁に行き当たり、息を吐く。傷口にもう一つの心臓があるみたいに、痛みが脈打ち思考を取り留めなくさせている。ここでは視界がぼやけていることを雨のせいにすることもできない。

「くそ…」

 苦痛をやりすごそうと目を閉じ、壁に沿って滑らせた指先が窪みに触れた。指をかけ弾けばその下から操作用のコンソールが顔を覗かせる。

 ――私はここよ

「もう…少し」

 コンソールを操作して隔壁を開けるのにさえ手間取った。昔はこれくらい寝ぼけ半分にだって出来ていたのに。

 ――ここにいるの

 分かってるよ。大丈夫。もうすぐ着くから。そんな声で俺を呼ばないで。

 ――ずっと、ずっと…

「…ここだ」

 俺はもう、何を信じればいいかすら分からなくなっているんだ。

 ――ここにいたの

 硬く閉ざされた扉。何重にもかけられたロックを解除するのにまた手間取って、傷口から滲んだ血が手を汚す。

 ――ずっとここで、待っていたの

「俺、を…?」


「――あなただけを」


 薄暗い室内。嘘みたいに輝く銀の髪。

「やっと来た」

 開かれた色のない瞳に息を呑んだ。

「ここから出して」

 冷たい輝きを放つ鳥籠の中から手を伸ばし、その《人形》は真っ直ぐに俺を見つめる。

「私を全部あなたの物にして」
「…ヤマト、だ」
「ヤマト」

 色のない瞳が鮮やかなスカイブルーに染まるのを見た。俺の目と、同じ色。

「私のマスター」

 外はまだ、きっと雨だ。





 ――スラムの平穏を蹴散らす轟音。

「…銃声だ…」

 乱立する建物に木霊して、その音がどこから聞こえてきたのかは分からなかった。なのに俺は走り出す。ぽつりと頬を打った雨粒に気付きながらも、濡れることを気にしてはいられなかった。

『お前は独りじゃないよ』

 何もかも見透かしたような爺さんの言葉が脳裏をよぎる。

「――爺さん!」

 嗚呼なんて出来すぎた死なんだろうと、広がる血溜りと泣き喚くガキ共を前に思った。

「…くそっ」

 あんたはもう、ここにはいない――





 俺を呼び続けていた《人形》が外の世界でなんと呼ばれているのか、俺は知っている。《絶対少女》――人間と同じ見目をした、愛玩用の人工物。スラムの外でならそう珍しいものじゃない。財布の中に少しの余裕と暇さえあれば、精度はどうであれ子供だって手に入れられる代物だ。

「ちょっと我慢しろよ」

 中の《絶対少女》が濡れないように、赤い染みの広がった上着で鳥籠を覆う。
 その隙間からスカイブルーの双眸が物珍しそうにスラムを見つめていた。

「ヤマト」

 不意に、そこらにある《絶対少女》とは比べるのもおこがましいほど精密に、繊細に、完璧といっても過言ではないほど作りこまれた指先が一点を指差す。
 指し示される方向を目で追って、俺は途端憂鬱になる気分と歪む表情を抑えられなかった。
 今この場にいるはずのない奴が、行く手を塞ぐように立っている。

「――何でお前がこんな所にいるんだよ」

 ここじゃ珍しく名前のある女。ドクターの養い子。

「いちゃ悪い?」
「部屋で寝てろ。ドクターが心配する」

 スラムではけして治らない病を患った人間。

「サラ」
「そんな声で脅したってダメ」

 お世辞にも、健康的とは言いがたい色の肌が薄暗いスラムで際立つ。屋外にいるということは体調がいいことの証であるはずなのに、今すぐベッドへ押し込めたくなるような顔色だ。

「ドクターのところへ戻ってよキング。昨日撃たれたばかりなのに、なんでこんな無茶するの!?」
「お前には関係ない。戻らなきゃいけないのは、お前だ」
「キングと一緒なら戻るわ」
「……」

 スラムにサラより可哀想な境遇の奴はいくらでもいる。なのにサラを他と同じように切り捨ててしまえなかったのは、その、自分だけが不幸で、可哀想で、傷付いているんだと言わんばかりの言動が、俺がいつの間にか失くしてしまっていた幼さの全てだからだ。

「じゃなきゃ戻らない」

 なのにどうしてだろう。今はそれが心底憎い。

「あぁ、そうかよっ!」

 忘れていたはずの痛みが叫んだ拍子に蘇り、鳥籠の中で大人しくしていた《絶対少女》が身じろいだ。

「ヤマト――」

 滑るように抜け落ちる温もり。入れ替わるよう体の奥底から冷え冷えとしたものが湧き上がり、鳥籠の中からは微かな重みさえ消えた。

「な、なに…!?」

 驚愕に目を瞠るサラの姿を、誰かが俺の視界から追い出す。

 ――大丈夫

 優しい声が、俺の全てを遮った。





「キングと一緒なら戻るわ」
「……」

 サラの言葉がヤマトを苛立たせ、ヤマトの苛立ちがゼロを動かす。

「あぁ、そうかよっ!」

 それはゼロにとって至極当然のことで、気の遠くなるほど永い間自分を閉じ込め、忌わしい力の手から守り続けてきた鳥籠を出ることに、類稀な《絶対少女》は何の躊躇いも覚えなかった。

「ヤマト――」

 漸く出逢うことの出来た唯一の主。その、尊き名と共に封じられていた力が解放される。

「な、なに…!?」

 制限されていた感性をも取り戻し、ヤマトが抱え込む傷の深さを知ったゼロはすぐさま力を揮った。

「ヤマトの邪魔は、させない」

 流し込まれる眠りに抗う術もなく、意識を失い崩れ落ちる幼い体をそっと抱き止めると、上着についていたものより遙かに濃い赤がゼロの手を汚した。

「あなたにあげもしないし、」

 唐突に開放された力が溢れ、薄暗いスラムをぼんやりと色付かせている。
 驚愕を通り越し、僅かに恐怖を滲ませたサラを一瞥すると、灰色の空へと目を向けゼロは嘆息した。
 鮮やかなスカイブルーの瞳が死んでいる。

「こんなところに、長々といたくもないわ」

 ヤマトの手を離れ、重力に従って落ちた鳥籠。黒光りするそれを見えない力で拾い上げ、最後に一度、ゼロはスラムを見渡した。
 発現しようとする力に呼応して、周囲を漂っていた力の欠片が集束を始める。

「さよなら、ヤマトを育んだ掃き溜め」

 嘲るでも、蔑むでもない。冷ややかな言葉と共にゼロとヤマトの姿は文字通りスラムから掻き消えた。

「……キング…っ」





 白銀の輝きが天へと伸び、掻き消える様をその目に焼きつけた女は、残された少女が呆然と立ち尽くしたまま一向に動こうとしないことに対して「つまらないな」と一人呟き、残された力の残滓を辿るよう視線を巡らせた。

「随分と《飛んだ》な」

 感嘆ともつかない言葉が大気を震わせる。

「…声くらいかけていくか」

 無造作に振り上げた腕が纏う力によって、無残にも切り裂かれた空間へと進みながら。女は月光を紡ぎ上げたような銀糸を揺らし、笑った。



「――面白いものを見せてもらったよ」



 なんの前触れもなく落ちる声。切り裂かれ、悲鳴じみた金切り声を上げながら抉じ開けられる空間。
 私は知っている。

「……イヴリース…」

 この発現を。

「久しぶりだな、ゼロ・ナンバーズ」

 私の髪よりも透明度の高い銀糸が、それ自体発光しているかのように輝く。トレードマークともいえる不敵な笑みを浮かべ、イヴリースは死に掛けの大地へと降り立った。

「新しい《御主人様》が見つかったようでなによりだ」
「態々そんなことを言うために?」

 降りしきる雨は無言のうちに揮われた力によって私たちへと届かず、血を失いすぎたせいで冷たくなっていたヤマトの体が、あっという間に温かさを取り戻す。

「私の事をそう邪険に扱うな」

 幼い子供を諭す母親のように、イヴリースは言った。

「道を示してやろう。お前とお前のマスターが、その瞳のように美しい空の下へ辿り着けるように」

 灰色に濁った空を仰ぐように伸ばされた腕は、やがて進むべき方向を示す。

「力を貸してやろう。私と同じ姿をしたお前が、哀しみに頬を濡らすことがないように」
「イヴ…」
「さぁ、行け。時は満ちた。私の鳥籠は変わらずお前を守るだろう。迷わずに進め」

 いつのまにか雨は止んでいた。

「健闘を祈るよ」

 慈しむ様な笑みと共に、イヴリースは雲間からさす陽光に類稀な銀糸を煌かせながら足下を蹴る。

「まっ…」

 風は彼女を包み込むよう渦を巻き、その風に身を任せ、私の元となった神紛いは姿を消した。

「……」

 彼女はいつもそう。
 残されたのは私と、ヤマトと、かつて彼女が私に与えた鳥籠と、進むべき道。

「…大丈夫」

 灰色の空はおかしいくらいに明るく照らされている。それが彼女からの餞別なのかそうでないのか。新しい主を選んだ私にはもう分からないけど、これだけははっきりとしている。

「私たちは一人じゃない」

 長い雨の終わりを告げる風が、吹いた。





(王様ごっこ/和斗と零。すらむ)