「死ぬのか?」
如月[キサラギ]の悲鳴じみた慟哭が思考を蝕んでいた。
イヴリースの美しい銀糸も、嘘みたいに澄んだ瞳も、どこか霞み色褪せて見える。
「らしいな」
美香[ウツカ]は少し自嘲気味に笑い、目を閉じた。
「私は、やりすぎたのか?」
静かな問いにイヴリースは沈黙をもって答える。
「少しくらい無理をしても、平気だと思っていたのに…」
悲嘆するよう、如月が啼いていた。
「泣くなよ、如月。もう充分喰っただろ?」
イヴリースは何をするでもなくその声を聞いている。
「それさえなければ、お前は本当に素晴らしい刀なんだから」
流れ出した血に比例して弱まっていく鼓動。刀身に触れた彼女の血――その命――を喰らい、己の欲望に初めて嫌悪を覚えた《他殺刀[タサツトウ]》。
指輪が、疼いた。
さて何がいいだろうかと、イヴリースは銀の指輪に目を落とす。
「…そう、順[マツロ]わぬものがよかろうな」
石の中で揺れたのは彼女の色でなく、ましてや混沌でもない。
「地の鏡。そは古[イニシエ]の眠りより解き放たれん。疾く、我が元に来[コ]よ。汝が器はこれに在る」
淡い菫、もしくは藤。鮮やかに瞬く指輪が吐き出した力の塊は、既に意識があるかすら怪しい美香の胸に落ちた。
「落ち着け、如月。この力がついうっかりと美香を殺してしまうようなことはない」
カタカタと刃を鳴らし始めた如月をなだめ、イヴリースはほくそ笑む。
「お前の名は、藤彩[フジアヤ]にしよう。どうせ滅多に使ってはくれないのだろうからな」
流れた血は如月が喰らい、ぱっくりと口を開けた傷は溶け込んだ力によって塞がれる。
もう二度と、如月が慟哭することはない。
「起きろ、美香。早くしないと追手に追いつかれるぞ」
永遠に、永久の眠りは得られない。
「――藤彩」
それが彼女の系譜に連なるということ。
(鮮血の祝福。そは永久に囚われの身となるだろう/美香とモドキ。おわりとはじまり)