成長しきって長い手足は動かし慣れないと持て余してばかり。
ウトガルズの城へ連れて来られてしばらくは、何も無い場所で躓くようなことがよくあった。
その度にリーヴかビューレイストに抱き留められて、幸い派手に転んだことはないけれど。
「大丈夫ですか? 寵姫」
「うん…」
廊下の途中。突然膝から力が抜けて、支えられる間もなく座り込んでしまった私をビューレイストは気遣わしげに見つめてくる。目線の高さが同じになるよう膝を折り。
「今日は歩き過ぎましたね」
いつもならすぐに差し出してくれるはずの手は、何故か下ろされたまま。
「ビューレイスト?」
不思議に思って声をかけると、にこやかな笑みを一つ。私をおいて膝を上げた。
「いつまでそうしているつもりだ?」
一緒にはいなかったリーヴの声がすぐ後ろから聞こえて、振り返る間もなく抱き上げられる。
ビューレイストの姿は私の目の前であっさり掻き消えた。
「ビューレイストが立たせてくれなかった」
理由はもう分かっている。リーヴが来ると気付いていて、その必要がないと分かっていたからだ。
ビューレイストとリーヴは繋がっている。
「足は?」
「平気よ」
少し高め。膝を抱え太腿で支えるように抱き上げられてリーヴを見下ろす。
「そうか」
真紅の瞳はゆっくりと一度瞬いてから前を向いた。
歩き出しても体が大きく揺れるようなことはない。それでもリーヴの頭を抱え込むよう体を倒すと、いいように抱き直される。
「どこ行ってたの」
「南」
「もうちょっと具体的に」
「イアールンヴィズの森」
この上なくべったりと体を預けて脱力。
「スリュムヘイムとの境にある?」
「あぁ」
「狼が沢山いるんでしょ」
連れて行ってくれればよかったのに、とは思わない。身を守るための魔力は充分すぎるほど持っているけど。まだリーヴの城を出たいとは思わなかった。
「狼の姿をした巨人とスリュムヘイムのスィアチは仲が悪いって、ビューレイストが」
「らしいな」
もうしばらくは城の中、たまに出かけていくリーヴの帰りを待ちわびていたい。
「明日も出かけるの?」
「あぁ」
「じゃあ、早く帰ってきてね」
連れ立って歩くには心の準備がまだ足りなかった。
(ひきこもりの姫/姫と王。ふかんせい)