「ちょっとたくましく育ち過ぎましたね」

 ビューレイストの視線はまっすぐ私の足下へと向けられている。
 体重を乗せた爪先の下には狼の巨人が一匹。

「そう?」

 へらりと笑いながら縛り上げる。グレイプニル。城の地下からくすねてきた魔法の紐で。

「昔はもっと可愛らしかったのに」
「今だってかわいいでしょー?」
「恵まれた容姿であることは認めます」
「…あなたは遠慮がなくなったわね」

 捕まえた狼は深く傷付いていた。
 脇腹の肉をごっそり抉られ、これが普通の狼ならとっくに死んでいるほどの深手。傷はついさっき負わされたばかりのよう真新しく血を流し続けていた。

「呪いでもかけられてるのかしら」
「牙に毒のある同族に襲われたのかもしれませんよ」
「それなら傷が腐ったりするんじゃない?」

 けれど何より私の目を引いたのは、狼の毛色。獣の姿をしているとはいえヨトゥンヘイムに生まれる巨人族である以上、本来それはリーヴやビューレイストと同じ銀の色をしているはずだった。
 それが、この狼はどうだろう。

「ミッドガルドから迷い込んだ普通の狼、ってことはないわよね? さすがに」

 ぐっしょりと血に濡れた毛並みはおよそ銀とは程遠い。夜のように暗い色をしていた。

「笑えない冗談です」

 ビューレイストと二人がかりで追い回し、半日かけてようやく捕まえた。これが「普通」の狼なら、ミズガルズの向こうは恐ろしい場所。人のように脆弱な種はとても暮らしていけないだろう。
 私だってこんなのが群れでいたらちょっと嫌だ。

「連れて帰るつもりですか?」
「ドラゴンが狼になっただけよ」

 本来の目的。飛竜を捕まえるつもりで持ってきていたグレイプニルも使ってしまった。時間だってそろそろ遅い。
 戦利品が変わったところでリーヴの反応に大差はないだろう。

「手当てしないと、さすがにそろそろ死んじゃいそうだし」

 左手にはグレイプニルの一端が巻き付いている。私が笑いながら右手を差し出すと、ビューレイストも仕方なさそうに笑みを返した。

「あなたが追い回したりするからですよ」

 私の手を取り、もう片方の空いた手で指を弾き鳴らす。
 引きずられるような浮遊感があって、少しもしないうちに私たちはウトガルズの城へと戻っていた。

「ノスリヴァルディを呼んできます」

 城に数あるサロンの一つ。私と狼を残してビューレイストは姿を消した。

「グレイプニルは役に立ったか?」

 声のした方へ目をやると、カウチに寝かかるリーヴと視線が絡む。
 手招かれ、私が素直に近付いて行くと起き上がって手を伸ばしてきた。

「とっても」

 抱き寄せられて膝をつく。カウチの端。
 リーヴの膝を跨いで座る。

「ねぇ、狼を飼っても構わない?」

 覗き込んだ真紅の瞳は、とっくに私のことを許していた。

「好きにしろ」





(欲しがるばかりの狩人/姫と右腕。いたんじ)