くしゅん、とくしゃみを一つ。鼻をすすったところでビューレイストに捕まった。
 大型犬程に縮まったフェンリル共々、浴室へ放り込まれてしばらく出てこないよう言い渡される。温まるまで絶対に。

「せっかく乾きかけてたのに…」

 スリュムヘイムからウトガルズの城まで。自然乾燥だったから、確かに体はすっかり冷えていた。ビューレイストの心配も分かるけど、この体が人並に風邪をひくかは疑わしい。
 《印》はなくとも魔力に満ちた《王》の体だ。

「フェンリル?」

 広い浴槽。手前で浸かれば私の胸ほどまでしか湯嵩のない。
 隣で大人しく一緒に浸かっていたフェンリルが徐に立ち上がって離れていく。
 ざばり。
 ぶるり。

「ちょっと!」

 激しく飛ばされた飛沫から顔を背けて目を閉じる。かしゃかしゃ聞こえた軽い足音にまた目をやると、出て行くフェンリルと入れ替わるようリーヴが姿を見せた。

「スリュムヘイムはどうだった」
「どうも何も、知っての通りよ。まったく酷い目にあったわ」

 土足。浴槽の縁にもたれかかる私の前までやってきて、濡れた床へ膝をつく。《王》のくせに。
 いつもほど冷たくはない手の平が首元へ触れた。

「災難だったな」
「ほんとにね。結局追いかけてたグレイプにも逃げられちゃう、し…」

 はく、と食まれて唇が濡れる。外側から。それ自体は他愛のない接触でも、同時に流し込まれた魔力は酷かった。
 私でさえ目眩がするほどの密度。くらりと傾いた体を引き上げられる。
 ざばり。

「あう…」

 唐突すぎて意味が分からなかった。どこからも繋がっていない。多分。リーヴからしてみれば違うのかもしれないけど。
 濡れた体を躊躇いもなく抱き竦められる。

「いいものをやろう」

 どこへ繋がるのかさえ分からなかった。





(熱に浸る/姫と王。すあし)