心臓が嫌な脈の打ち方をした。

「リーヴ!!」

 悲鳴のように呼びつけながら飛び起きる。カウチを下りて。
 床へつけるつもりの爪先はつぷりと薄い影へ沈んだ。

「っ、」

 滑るように落ちる体を止められない。

「大丈夫だ」

 落下はいつの間にか上昇へと転じていた。
 黒く閉ざされた影の中から引き上げられる。

「害はない」

 そんなことは分かっていた。

「あいつ私に何を入れたの!?」

 《マナ》は正しく反応した。
 落ちてくる短剣を防ごうと意識した魔術は間違いなく発動して。

「ルーンを刻んで作られた剣」

 レーヴァテインは私の力をすり抜けた。

「魔力を喰らうが、お前を傷付けることはない」

 あやすよう抱き竦めてくる。リーヴの指先はゆるゆると髪を梳いた。
 なだめるように。

「魔力を、喰らう…?」

 そうしていとも容易く落ち着いた。私の体はすっかり慣らされてしまっている。

「ダーインスレイヴは強力な魔剣だった」
「私を鞘にしたのはロキが作ったレーヴァテインなんでしょ?」
「レーヴァテインはダーインスレイヴをルーンによって作り替えたものだ」

 リーヴの言葉はするりと私の思考へ絡みついて理解をもたらす。
 
「二重の封印…」
「そうと言えなくもないな」

 たっぷりと刃に染み込んだ血。貪り食らった命の数がそのまま力となっていた。ダーインスレイヴをルーンによってレーヴァテインへと作り替えたことが一つ目の封印。更に私をレーヴァテインの《鞘》とすることで、ダーインスレイヴの呪いが再び世に出る可能性を限りなく低くした。
 封印、という枠に嵌めてしまえば「完全」と言って過言でないほどの遣り様。

「何にせよ、レーヴァテインはお前のものだ」

 ダーインスレイヴが《魔剣》として持っていた魔力や特殊な性質は、一つも余すことなくレーヴァテインへ引き継がれているのだろう。きっと一分の無駄もなく。それでいて私へ害のないように。
 歩くほど自然と魔力を紡ぎ、謳うようルーンを口ずさむ。

「剣の使い方なんて知らないのに…」

 ロキは間違いのない天才だった。





(災いのなる枝/姫と王。つるぎ)