左手を引かれたような気がして振り返ると、ベッドの上でラスが鎖を手繰っていた。私の左手とラスの右手を繋ぐ不可視の鎖。じゃらりと音がして、私は今それが実体化している事を悟る。
「なに?」
ぐいぐい引かれて手の届く距離まで戻る。更に引かれて膝が折れた。ベッドに乗り上げる私をラスは笑顔で迎える。
「キスしよう」
そう言うラスが私の否やを聞いたためしは無い。
「んっ…」
支えも無しに深いキスをされるのが嫌で引こうとした体は右手一本で止められた。余裕を持って絡められていた鎖は、いつの間にか痛いほどお互いの手を締め付けている。
「――おはよう」
唇が離される頃には幾らか息が上がっていた。
「おはよう…」
寝起きなのに疲れ切った私がもう一度ベッドに沈むと、引っ張られるような形でラスもついてくる。
鎖は倒れる瞬間手を傷めない程度緩み、またすぐに余裕を失くした。
「まだラスでいたい」
それが最初に鎖を引いた時の問いかけに対する答なのだと気付いたのは、少ししてから。
「ラスでもラスティールでも一緒でしょ?」
ラスはこの鎖の届く範囲でしか《ラス》になれない。だからこその接触過多だ。何かの拍子に離れ過ぎてラスティールに戻ってしまう事をラスは毛嫌いしている。戻るのならあくまで自分の意思で。それ以外の時は今のように鎖を手繰って阻止しようとする。
「本当にそう思ってる?」
「思ってない」
その事をすっかり忘れていた私は、もう当分離してはもらえない。少なくともラスの気が済むまではこのままだ。
「ラスティールの方がラスよりも格好良いし、大人」
「…私は?」
「ラスはもうまるっきり子供。甘いし。ラスティールと同一人物だなんてホント信じられない」
思わず本音混じりの意地悪を言うと、縋るような目で見つめてくる。そういう何気ない仕種がラスティールの時とでは明らか違っていると、自分で分からないのだろうか。
「でも好きよ」
それにラスティールは絶対私に「愛してる」とは言わない。「大好きよ」とは言っても、私に愛を告げるのはラスの時だけだ。
「シーリン…」
そしてそれは、私も同じ。
「だからさっさと放して」
「やだ」
どうして分からないのだろう。
(血の絆)